プレジャーボートのインテリアデザインについて(第2回)



 
 3 インテリアデザイン(3-4-2以降)

       
3.4.2 カントリースタイル〜素朴で温かみのある自然素材のインテリア〜     
■トータルイメージ                             
 カントリースタイルには、貴族の館・カントリーハウスの流れをくむイングリッ
シュカントリーやプロヴァンス地方のフレンチカントリー、アーリーアメリカンや
シェーカー、サンタフェなど幅広いスタイルのアメリカンカントリーなどがある。共
通しているのは、のどかな自然に囲まれた田舎家のようなインテリアだ。     
 カントリースタイルでも時代や国柄によって多少趣味も異なる。プロヴァンスのフ
レンチカントリーは素朴ながらエレガントな雰囲気があり、鮮やかな色使いのハンド
プリントのファブリックが特徴だ。イングリッシュカントリーは イギリスの庶民の田
舎家のスタイルで、オークやパインで作られた家具にはぬくもり感があるハンドペイ
ントがほどこされ、バスケットやドライフラワーで室内を飾るとぬくもり感がより引
き立つ。またアメリカンカントリーはアメリカ開拓時代のインテリアスタイルで、機
能性に富んだ粗削りの素朴さと、アットホームな雰囲気だ。           
                 ■ 家具                                     欧米の伝統的なスタイルをベースに手作り風の温かさがプラスされた素朴なもの で、ムクのパイン材やオーク材などが使われ、木の質感を生かした自然の塗装のほか にペイント塗装もある。カーテン地は、コットンや麻、ウールが多く、植物画風のや さしい花柄やチェックなどがメインとなり、ドアノブなどの金属部分にはアイアンや 古色仕上げの真鈴などが多く使われる。                   
                 ■ウインドウトリートメント・ファブリック                   カーテンやファブリックにはコットンや麻を素材に、チェックやストライプ、細か い花柄が多く使われている。またカーテンレールを木やアイアンにし、ファブリック で自分流のカントリー調にするのも主流だ。チェックはカントリースタイルの象徴的 な柄なので、まずは単純な色使いのチェックやストライプでまとめると良い。ただ し、でこでこした柄は良くない。                      
                 ■ 照明                                  シェードや素材は素朴で自然なものを用い、温かみのある光源で部屋全体を明るく すると良い。                                 自然素材の木と暖かみのある丸い形のライト                  
                
               3.4.3 シンプルスタイル 〜装飾性のないインテリア〜               ■ トータルイメージ                               シンプルスタイルの部屋は飾り気のない、家具のデザインも曲線をあまり使わずカ ラフルな色も使わないというのが特徴だ。 このシンプルスタイルの部屋は、ナチュラ ルスタイルと並んでとても人気のあるスタイルで、合板やプラスチック、スチールな どの現代的な素材を使い、洗練されたフォーマルで飽きのこないスタイルだ。また、 シンプルな家具で統一されているわりには、アイボリーのような柔らかい色調のもの を使っているため、クールではなく温かみが感じられる部屋の雰囲気となっている。  シンプルスタイルとモダンスタイルの中間に位置する北欧スタイル(スカンジナビア モダン)は、プラスチック素材の家具を使用した場合モダンスタイルに分類され、北欧 の自然素材である白木素材の家具を使用した場合にはシンプルモダンに分類される。  このようにシンプルスタイルにもさまざまなスタイルが混在している。余分なもの を使わず必要最小限のものだけで部屋をまとめて、シャープさを損なわず にシンプル な小物を飾るなどして、洗練されたシンプルスタイルな部屋を作り出す。      
                
                 ■ 家具                                     家具は、デコラテイブな家具は置かず、直線的でベーシックなデザインの物が良 い。また木を主な材料とする家具だと、シンプルでもナチュラルな雰囲気が強くなっ てしまうので、避けた方が良い。洗練された雰囲気を出すには、スタイリッシュなデ ザイナーズアイテムを取り入れると効果的だ。                 
                 ■ ウインドウトリートメント・ファブリック                    窓周りのカーテンは、派手な柄物は避け、素材もスッキリした物が良い。有彩色を ベースカラーにしてシンプルな部屋作りをするにはかなりセンスが必要なので、まず は無彩色やベージュ、オフホワイトのような色を基調にすると良い。       
                 ■ 照明                                     照明は、シンプルなスポット照明などを中心に陰影をシャープに出し、シンプルす ぎるときには、デザイン性の高いホロアランプは効果的なアクセントとなる。   
               
3.4.4 クラシックスタイル 〜古典様式を取り入れた優美なインテリア〜 ■トータルイメ-ジ                                クラシックスタイルは、建築装飾洋式のひとつであるバロック洋式にして、格調高 くマニュアルどおりにコーディネートされてきた。現在は、『クラシックな雰囲気』 を楽しむと言った傾向で、マニュアルにとらわれず自由にコーディネートされるよう になった。クラシックなインテリアは、全体に彩度の低い落ち着いたトーンで構成さ れる。すべてのアイテムは格調高い上質な素材のものが使われている。クラシックス タイルの代表的なスタイルには、ヨーロピアン クラシック、イングリッシュトラディ ショナル、アメリカントラディショナル、などがある。             ヨーロピアンクラシックは、装飾性豊かなルネッサンス、さまざまな彫刻がほどこさ れたバロック、繊細で曲線的なロココなどの装飾様式に、古典的な重圧さを加えたス タイルだ。                                   イングリッシュトラディショナルは、イギリスの伝統的なスタイルでロマンティッ クなアンティーク家具や、気品あるバラの花柄や優美な柄のファブリックを中心にま とめたスタイルだ。                               またイギリスの伝統的なスタイルを踏襲しつつ、アメリカ流にアレンジした のがア メリカントラディショナルだ。様式は、クラシックスタイルの特徴を押さえながら も、格式張らず、親しみやすい雰囲気が特徴だ。                
                ■ 家具                                    細部の特徴は時代洋式によって変化してきた。『猫脚』と呼ばれる曲線を持った 家具の脚などはクラシック家具の特徴だ。                   
                ■ ウインドウトリートメント、ファブリック                  窓まわりは、カーテンボックスを付ける事で、より格調高い雰囲気を表現でき、 カーテンはたっぷりとった厚手の夢ドレープとレースやボイルを重ね合わせて重厚な イメージが良い。                               イングリッシュトラディショナル
■ 照明                                    照明器具は家具にあったアイテムを選び、家具の材質と合わせ、アンティーク仕上 げの真鍮をベースにしたスタンドも気品がある。                
               
              3.4.5 和風スタイル 〜日本の静かな停まいを感じさせるインテリア〜        ■ トータルイメージ                               和風スタイルは私たち日本人にとって最も身近なスタイルであると思われるが、 近年ナショナルスタイルやモダンスタイルなど、アメリカンテイストな部屋や、西洋 のおしゃれな家具を飾った部屋などが人気となっている。             和風といっても、昔からの生活様式である「畳に座る」生活にこだわったものでは なく、カントリーやモダンを取り入れたスタイルもある。             和風の代表的なアイテムには、畳や障子、すだれなどがある。テーブルや椅子など の現代的な暮らしのスタイルに、これらのアイテムやかすり柄や藍染めなどの布製品 や骨董品を組み合わせた静かな佇まいの部屋を民芸風という。           民芸風の部屋の家具は品のよい和家具でそろえ、背丈の低いロータイプのものを選 ぶと、部屋が重たい雰囲気にならず、落ち着いた空間になる。           また、部屋のつくりや建具などは日本の伝統的な工法のままで、和にこだわったイ ンテリアではなく、モダンなデザインの家具やインテリアに障子などの 和のアイテム を取り入れた和洋の調和が重視されたスタイルを和風モダンという。和風モダンは、 天井や壁など部屋のつくりや建具などに日本の伝統的な工法を使いながらも、インテ リアは和のデザインにしぼられず、現代感覚で配置したスタイルで、「和魂洋才」と いう表現があてはまるスタイルだ。                       
                ■ 家具                                     家具は木を始めとするナチュラルな素材を用い、斬新でデコラテイブなデザインは 使わない。モダンなインテリアを配しながら、カーテン生地に和風の調和が重視され る。ベースはシンプルなフォルムのインテリアで、全体的に端正な雰囲気が漂ってい るのが和風モダンの特徴だ。                         
                ■ ウインドウトリートメント・ファブリック                    和風スタイルの部屋の床には竹のフローリングや肌触りのいいイグサの畳が主流 で、天井や壁は布製のクロスでまとめると、落ち着いた空間になる。窓や扉は、障子 が最適だが、和風を使ったプリーツスクリーンや竹を使ったロールスクリーンなども 良い。ただし、ボリューム感のないものが良い。               
                ■ 照明                                     照明は、堤灯のような竹や和紙を使ったもの、かごや簾などを編んだシェードから 漏れる白熱灯の光といった和風照明を低めに置くと良い。           
                
               3.4.6 アジアシスタイル 〜リゾート感覚のインテリア〜              ■ トータルイメージ                               アジアンスタイルとは、中国や韓国はもちろん、インドネシア、インド、タイなど のアジアの国々の伝統工芸品や民芸品や家具でまとめられている独特の雰囲気で、バ ンブ-や麻などの素朴な自然素材や、伝統的な民芸家具、織物などによりリラックスを 演出し、落ち着いた雰囲気のリゾート感あふれるスタイルだ。            床の素材はサイザイル麻、天井にも麻の素材を用いるとさらにシックな雰囲気にな る。このスタイルの部屋の色調は、ブラウンが基調であり安らぎや落ち着き、自然を 感じさせるが、微妙な色使いにより重苦しくなることがある。またアジアの家具は存 在感や個性の強いものが多いので、1ヶ所にまとめると暑苦しい雰囲気になるので注意 が必要だ。                                   アジアンスタイルにはさまざまな国のスタイルがあるが、若い人中心に人気がある のがエスニックスタイルだ。このスタイルは国を限定せずに、アジア各国の民芸品や 家具などで、いろいろな国が混在している無国籍風の独特の雰囲気のスタイルで、国 によって素材や雰囲気が変わってくるので、同じ国の民芸品や家具で統一するとまと まった感じになる。また、中国の伝統的な家具や技術工芸品でまとめたスタイルがシ ノワズリだ。かつてヨーロッパの貴族階級の人々が中国のエキゾチシズムを強く感じ させるインテリアに魅了されて、流行した。黒やこげ茶を基調にした家具類は、精巧 な彫り装飾がほどこされているのも多く、王朝風の雰囲気が特徴だ。        
                 ■ 家具                                    家具は、目立つ大型収納や飾り棚、 AVボードなどにバンブーや木製の家具を取り入 れるだけで、かなりアジアンテイストが引き出せる。              
                 ■ ウインドウトリートメント、ファブリック                   窓周りのカーテンやファブリックはコットンや麻、シンクなどの天然繊維を使い、 手織りの素材感や手つむぎした風合いの強いものを 選ぶと良い。          スパイシーカラーのエスニック調柄のカーテン                
                 ■ 照明                                     照明は、バンブーや籐の影をぼんやりと柔らかい光にする事で、くつろげる雰囲気 を作り出すことが出来る。                          「おりがみ」のような素材の和紙を使用したペンダントライト          
               
               3.4.7 モダンスタイル〜デザイン性の高いスタイリッシュなインテリア〜      ■ トータルイメージ                               モダンスタイルとは、国や文化による顕著な違いは見られないが、過剰な装飾はせ ず、現代的な素材を使って、はっきりした線や斬新なフォルムを持ちデザイン性の高 いインテリアが特徴のスタイルだ。モダンスタイルの部屋の色調はモノトーンがベー スで、デザイナーズ家具との組み合わせにより、クールな空間を演出できる。モダン スタイルには、イタリアンモダンやシンプルモダン、北欧モダンなどのたくさんの種 類があり、この中でも日本で人気のあるスタイルはイタリアンモダンスタイルだ。こ のスタイルのアイテムの値段は高価なものが多いが、シンプルで高級感のあるアイテ ムや遊び心のある斬新なデザインや色の小物など選んで、自分流のモダンな部屋を作 ることが人気の理由だ。また同様に、若い人を中心に人気のあるのが、アメリカンモ ダンだ。アメリカ では1950-60年代、合板やプラスチック、スチールのシンプルな 家具が流行した。                             
                 ■ 家具                                     家具は、デザイン性の高い物でソファやイスも張り地に革を用いているものや、布 がベストだ。装飾的なものや生活感、ぬくもりのある家具は向かない。      
                 ■ ウインドウトリートメント・ファブリック                   窓周りのカーテンは、シャープな雰囲気のあるブラインドやロールスクリーンは相 性が良い。ファブリックの色はモノトーン、モノクロームでまとめコントラストの強 いビビットな物をアクセントに選ぶと良い。何色も取り込んで華やかにしたり、柄の ある生地や小物は避けた方が良い。                      
                 ■ 照明                                    照明は、クロムメッキや硬質なプラスチック、ガラスなどを用いたデザイン性の高 いものを選ぶと良い。クールな光源を用い、コントラストのはっきりした演出が良 い。スタイリッシュなデザインライト                     
               
                3.4.8 インテリアスタイルの検討経過と結果                     本稿では54FTモーターヨットを試設計しプレジャーボートのインテリアデザインの 検討を行い、シンプル モダンスタイルを採用した。経過、結果を以下に述べる。  (1) インテリアスタイルの検討経過                         インテリアスタイルを決定するにあたり、万人に好まれるインテリアスタイルの調  査を行うため、事前に好みのインテリアスタイルについて100人にアンケート調査  を行った。人気の多かったスタイルは、ナチュラルスタイル31人、シンプルスタイ  ル28人、モダンスタイル32人であった。この3つのスタイル からスタイルを検討し  た。                                    (2)インテリアスタイルの検討結果                        4-3 (部屋を見せる工夫)で述べた後退色や軽い色の効果を利用すると、壁面やイン  テリアのように面積を多く占める場所は、後退色または白のように明度の高い軽い  色を用いると部屋が広く見える。この色を多く配色するのがシンプ ルスタイル、ナ  チュラルスタイル、モダンスタイルだ。                      ナチュラルスタイルは、白い色の配色が多く木の温かみがあるイメージだ。 シン  プルスタイルは、同じく白い色の配色が多く使われ、飾り気がないのが特徴だ。    モダンスタイルは、はっきりした線や斬新なフォルムを持つ、デザイン 性が高い  インテリアが多くモノトーンをベースにクールな空間が特徴だ。          試設計を行ったプレジャーボートは、生活感をなくしすっきりとした癒しの空間作  りをコンセプトに考えているので、ナチュラルスタイルの様な温かみがあり生活感  を感じるスタイルより、シンプルスタイルやモダンスタイルの方がコンセプトに  そっている。                                 そこでシンプルスタイルとモダンスタイルの良さがまとまっているシンプルモダン  スタイルを採用した。                              シンプルモダンは、幾何学的な形や直線的なデザインを多用し、生活感を無くして  装飾を極力排除した空間だ。モノトーンなど無彩色をベースカラーとし、使う色を  少なく絞り落ち着いた空間を演出できる。素材や質感で高級感溢れるデザインの家  具がよく合うデザインで、このプレジャーボートのコンセプトにとても合うデザイ  ンだ。また室内を広く見せるため、白を多く配色しすぎると、白は不安定に感じる  色で落ち着きがなくなる。それを安定感のある黒でモノトーンの空間をつくり、不  安定さを解消できる点においてもシンプルモダンデザインは最適だ。      
 
(プレジャーボートのインテリアデザイン 第2回 終り)